【コラム】
失敗を設計せよ

若手生産技術者育成論 失敗を設計せよ

「自分で考えない」「失敗を恐れる」「言われたことしかやらない」——
若手育成の悩みは、どの現場でも共通している。独立してコンサルタントとして活動する今も、訪問先の経営陣から同じ言葉を繰り返し聞く。しかし問題の本質は若手にあるのではなく、失敗できる環境が社会ごと失われた時代にある。元トヨタの現場エンジニアとして約16年を過ごし、現在は製造業コンサルタントとして中小企業の現場に立ち続ける筆者が辿り着いた結論——それが「失敗の設計」という逆転の発想。

「失敗するな」から「失敗せよ」へ

独立してしばらくたったあと、同業のコンサルタントと飲みながら問われた。「トヨタ時代も今も改善活動をしているが、その時と今は何が違うのか」。とっさに頭に閃いた答えはシンプルだった。トヨタの時は「失敗するな」、今は「失敗せよ」。

独立後、製造業はもちろん、クリーニングや物流など業種を問わず現場に入り込んできた。机を動かし、作業方法を変え、流れをつくり、ムダを取っていく。大切にしているのは「必ずその場で何かを変える」こと。訪問のたびに何かが動くという実績を、積み重ねることが信頼につながる。

しかし、その裏には数え切れない失敗がある。設備を動かしたら止まった、段取りを変えたら残業が増えた、現場のベテランに怒鳴られた——失敗のリストは挙げればきりがない。それでも失敗を続けられるのは、失敗を「過程」として捉えているからだ。今の会社を始めて3年になるが、来年潰れても仕方ないとさえ思っている。最終的なゴールから見れば、一つや二つの失敗は通過点にすぎない。改善も同じで、一発目でうまくいくことなどない。失敗してもまたやる、またやる——その繰り返しが前進の正体である。

この失敗の発想が、トヨタ時代は無意識に抑制されていたようだ。それが今、肯定的にとらえられている。私のこの変化から、若手育成への一つの結論を述べたい。若手が挑戦しない、自ら考えない——その根本的な解決策は「失敗を設計せよ」ということ。言ってしまえば、子どもが自転車に乗る過程のようなもの。安心して転べる環境、必要な防具、そしてその様子をずっと見守る大人の存在。その環境を、今この難しい時代にこそ、あえて意図的に設計することが求められている。

コンベアを撤去する筆者(手前)

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なぜ「失敗の設計」が若手育成に必要か

理由① 体で理解することの重要性

街を歩けばノウハウ本が並び、SNSには「絶対失敗しない○○法・○選」があふれている。もしかしたら、このコラムにも正解を探しに来た方がいるかもしれない。知識を頭に入れることは、かつてないほど簡単になった。しかしその一方で、「体で理解する」機会は逆に減り続けている。

知識が欲しくなるのは、感情が動いた時だ。失敗して悔しい、前回より少しうまくいって嬉しい——そういった感情の揺れがあるからこそ、「なぜそうなったのか」を知りたくなる。体感が先で、知識はその後についてくる。筆者自身、お客さんの悔しそうな顔、困った顔を見て「この状況をなくしたい」と思うからこそ、必死に勉強する。感情が学びを引き寄せる。体感なき知識は、現場では動かない。

理由② 失敗そのものが訓練

リスクとリターンの見極めは、頭で学ぶものではなく、経験の積み重ねで養われる感覚だ。自転車に例えれば、いきなり急坂を下れば大怪我をする。まず平らな道でペダルを漕ぎ、転び方を覚えることが先。どの程度の挑戦でどの程度の失敗が起きるか——この肌感覚は、失敗の中でしか育たない。

将来、大きなプロジェクトで意思決定をする立場に立つ時、リスクを見積もれる人材と、失敗しても折れない心を持つ人材が求められる。その土台は、若いうちに小さな失敗を重ねることでしか築けない。低成長時代でSNSの批判が飛び交う今だからこそ、あえて失敗の機会を「設計」することが必要。かつてはルールや慣習の中で自然に失敗できた環境が、今は意図しなければ生まれない時代になった。

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失敗を設計する3つの方法

「失敗を設計する」とは、自転車で言えば安心して転べる環境を整え、必要な防具を渡し、転ぶ様子をずっと見守る——そのような仕組みを意図的につくること。では具体的にどう設計するか。3つのアプローチを提案する。

1. モデルラインの設置

ここでは、整流化の考え方を活用する。生産数やタクトタイムが多少劣っても構わない。若手が自分たちの手で考え、動かし、変えられる専用の場をつくることが目的。「ここは君たちのラインだ」と任せることで、当事者意識と改善への意欲が育つ。

2. 原理が見える道具の活用

電子制御や自動化が進む前に立ち返り、古い設備や切るといった加工動作が目に見える設備、アナログのホワイトボードや紙を使うということ。デジタルツールは便利だが、手で触れ、自分で動かす手触り感こそが本質的な理解につながる。

あえてアナログで行う

3. 外の世界への越境

特に大企業の若手にとって最も効果的。中小企業の現場では自分が原理に触れる機会が多く、貢献実感も得やすい。「自分の知識がこんなに役立つのか」という感情の揺れが、次の学習意欲に直結する。失敗も多いが、それが「楽しい」と思える体験になる。自社にそういった環境がないなら、積極的に若手を外へ送り出してほしい。

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若手は管理者の背中を見ている

今の管理者世代が若かった頃、経済成長の空気がまだ残っていた。明日は今日より良くなるという前提の中では、失敗にも周囲が寛容だった。多少の無茶も「若いうちの経験」として許された時代。しかし低成長の時代に入り、失敗するとSNSでも叩かれ、居酒屋選びでさえ口コミを調べてから決める——そんな風潮の中で育った若手が、失敗を恐れるのは当然の帰結。

だからこそ今、求められるのは失敗を設計すること。かつてのように環境が自然と失敗の機会を与えてくれた時代ではない。管理者が意図的に仕掛けなければ、若手は永遠に「正解待ち」のままになる。

しかし、最後に一つ大事なことを述べておきたい。失敗を設計するのは若手のためだけではない。管理者自身が変わるためでもある。新しい制度を始めたら笑われるかもしれない。うまくいかないかもしれない。それでも失敗を恐れずチャレンジする姿こそ、若手が最も見たがっているもの。若手が見ているのは、研修資料でも制度の説明書でもなく、管理者の背中。「あの人は失敗してもまたやっている」——その姿が、若手の行動を変える最大の教材である。

失敗を設計することは難しい。しかし難しい時代だからこそ意味がある。安心して転べる環境、必要な防具、そして見守る眼差し。その3つを整える覚悟が、今の管理者には求められている。若手の成長を待つのではなく、成長できる場を意図的につくること——それが、これからの育成の本質である。

田代 勝良 氏

田代 勝良工場改善サービス株式会社
代表取締役社長

トヨタ自動車にて16年間生産技術・製造技術に従事。
新車立ち上げや海外赴任などを経験後独立。
現在は製造業の現場改善・人材育成を幅広く支援。

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